画家のおもちゃ箱 / 猪熊弦一郎、大倉舜二(写真)/
文化出版局1984 / 233 x 313 mm/ 138 pages /
は「本まるさんさくしかく」
で販売中です。
洋画家猪熊弦一郎の
コレクションをまとめたものです。
「手の切れるような美しいものもいいが、
永い間使い古した、虚飾を抜きにした
人間らしいものの良さはどうしても
見捨てがたい・・・」と本人の弁。
ガラス瓶、ビー玉、スプーン、
卵のパッケージ、シェーカー・ボックスなど
アーリー・アメリカンの庶民的で
プリミティブなモノを中心に、
ピカソやアンディ・ウォーホルの版画、
クリストのオブジェ、
バックミンスター・フラーのデッサン。
身の回りのもので作った自作の
オブジェなどの対話彫刻も。
芸術家夫妻の愛すべき様々な品々を
ある時はあるがままに撮影し、
文章を添えた1冊です。
値段じゃなくて、
自分の滋養になるものという、
コレクション基準。
いつだったかは
忘れましたが、
目からウロコでした。
ググっときた
あとがきの全文を
ご紹介します。
「永い画家の生活をしていると住居の中には、いろいろなものが私達の本当に良き友として、あるものはまるで恋人のように静かに同居している。私の性格で、マニヤのようなコレクションのためのコレクションはしたくないのである。つまりアーティストとしてのテイストにふれるもの、私の仕事に何か滋養分としてプラスになるものは、いつでも自分の手元にあってほしいのである。私達が過去に過ごして来た巴里・アメリカを中心に、いつのまにか私の周辺には、これ等の愛すべきものでいっぱいになってしまった。その友をどこかクローゼットに仕舞い込んでおき、時々会いたいものだけを取り出しておけばいいではないかと思うのだが、どれも皆一つ一つ思い出と愛情があふれていて、ほとんど全部はいつも顔を揃えているのだ。それは高い金を払ってやっと手に入れたものから、歩道で拾った小さなものまで、私にはどれも可愛い友であり宝物である。ある日『ミセス』編集部の真鍋さんが、写真家の大倉さんと一緒に見えて、私のこれ等の友達を『ミセス』に1年間紹介したいと言われた。その案が実現して私がコンポジションを作り大倉さんが撮影したものに解説をつけて掲載された。その後1冊の本にまとめたいと言う話が出たのは、もう2年か3年も前になるかもしれない。その後大倉さんも多忙の中、幾度も私の宅に脚を運ばれて撮影を続けてくださり、解説を又書くことになったが、それが延び延びになって、やっと今年になって終了したのである。ハワイにやって来て運悪く元旦から入院、大騒ぎをしたが幸いにも順調に退院が出来、ここでやっと病後の身体で残っていた原稿を書き上げ、安堵したところである。長い間編集部の方々と大倉さんに心配をかけたが、これで一件落着である。今度ほど感心したことはない。それは永い間に一度も直接催促の言葉を聞いたことはないからだ。それに対しても私も何としても報いたく一生懸命であった。今までこんなにまとめて原稿を書いたのは初めてだし、絵を作るのと違って、これほど驚いたことはない。これに若くて素晴らしいデザイナーの平野君の応援を得て、編集の吉田女史の熱援も加え、いよいよ1冊の美しい本が生まれることになった。嬉しいことだ。まだ出来ないのにその出来上がりを見ることが急がれるのである。人間は実に我儘なものであると思う。
私の愛する沢山の友は1冊の本の中に安定し、皆様に見ていただくことは本当に愉快なことだ。この本はある芸術家の顔そのものであり、嬉しい秘密の言葉でもある。」 1984年2月 猪熊弦一郎